―― この会社は、好きですか。わたしはとってもとっても好きです。でも、何もかも変わらずにはいられないです。

新卒入社初日から予期していたこの時がやってきた。11 年半勤めてきたマイクロソフトディベロップメント株式会社を去る日が来たのだ。

振り返れば、これまで様々な経験をすることができた。当初はテスト担当だった職種も、途中で品質保証担当となり、最後には実装に携わることもできた。対外イベントの登壇と、その流れを汲んだソーシャルネットワーキングサービスでの顧客交流は、自分の携わった製品や機能への声を聞くことができるという、ソフトウェア開発者冥利に尽きる体験だった。

それらの道程は決して自分一人の力で歩んだものではない。30 年物の秘伝のソースを守りつつ改善する、広く深い知識を持つ百戦錬磨のソフトウェア開発者達。顧客の為に何をするべきか、大企業によくある制約の中で最善の選択をするべく努力する人々。そういう周囲の人々、そしてそんな人々達と共に働ける場を提供してくれた会社に出会えたことは、類い稀なる幸運だったと思う。

この決断は決して容易なものではなかった、というのは転職する人の決まり文句になっているが、自分の場合はさして難しいものでもなかった。諸般の事情によりそもそも決断する余地が無かったというのも勿論有る。ただ、じゃあ同じ会社でどうしても働き続けたいかと考えたとき、そうではないという結論に至るまで然程時間は掛からなかった。10 年以上同じ会社で働き続けていて、このまま快適な環境に満足していて良いのだろうかと漠然と考えていた所だった。会社の外に目を向け、自分の市場価値を知る良い機会ではないか。

しかし、その市場価値とやらはどうやら自分には殆ど無さそうだと早々に思い知る。私の経歴が素晴らしいと言ってくれるのは、有象無象の転職斡旋業者ばかり。地方でソフトウェア開発者として在宅勤務を続けていたい、と考えると選択肢は自ずと絞られる。ウェブサービス開発の経験が無ければ尚更だ。日々の仕事と家庭を言い訳に、個人開発も知識の研鑽もできないままでいた自分には、会社の外に何も残っていなかった。これまで何物にも代え難い稀有な経験をさせてもらってきたと感じているが、それは取りも直さずそんな経験は遍く必要とされているものではない、ということなのだろう。

捨てる神有れば拾う神有りとは良く言ったもので、そんな私にも知人数名が自身が勤める企業に興味は無いかと声を掛けてくれた。転職活動を通して最も助けられたのは、そういう知人からの誘いや助言だった。それらが無ければ、今頃路頭に迷ったまま絶望の淵に沈んでいたことだろう。

その内の 1 社とご縁が有り、明日からは福利厚生サービスを創るスタートアップ、株式会社 HQ のソフトウェアエンジニアとして新たな一歩を踏み出すことになる。これまでとは製品、使用言語、企業規模、何をとっても新しい世界だ。その上、久々に最も経験の浅い者が自分という環境に身を置くことになる。

自分の力が何処まで通用するか、不安が無いと言えば嘘になる。しかし、快適な空間から出る時こそ、学びと成長の機会なのだという。ならば自分のこれまでの努力を信じて一歩踏み出すしかない。これが私の “Hit Refresh” なのだ。