評価という呪縛からの解放
大企業(正確にはその子会社)だった前職には、綿密な人事評価制度があった。その一環として、定期的に自身の成果や他者に対するフィードバックを提供する期間が設けられていた。
自らの功績を誇ることにも他者を評価することにも苦手意識を持つ自分にとって、毎度難しさと直面する期間だったことを思い出す。特に「他者への建設的なフィードバック」はどう書いたものかと頭を悩ませた。幸運にも周囲の人々は十分有能であり、私が評価することで新たな価値を提供できるように思えなかったのだ。
そんな自分に後ろめたさを感じていたが、『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』(マーカス・バッキンガム、アシュリー・グッドール著、櫻井祐子訳、サン・マーク出版)を読んで、少し気が楽になった。曰く、他者に対する評価やフィードバック自体が殆ど信頼性の無いものだという。評価の分散の大半が評価者自身の評価パターンで説明できる上、評価の基準も曖昧だと指摘している。
確かに、私は他者の評価についてはまるで素人であるし、私から見えている他者の努力は氷山の一角にすぎない。そんな自分による評価が本書の言う「雄牛の体内の原子数当て」と同じぐらい的外れなのは、当たり前ではないか。
翻って、他者から自分への評価についても、必ずしも絶対的なものではないのだろう。思い返せば、評価の波は努力の量や方向性よりも、寧ろたまたま分かりやすい成果として見えたかどうか、という要因の方が大きかったように思う。言ってしまえば、時の運なのだ。
人事評価それ自体が無価値という訳ではない。その過程で自分の軌跡を振り返り、今後の行く先を立ち止まって考えること自体には意義がある。ただ、最終結果としての評価が良かろうが悪かろうが、気にする必要など無い。私はただ自分が正しいと信じる道を歩んでいる。周りの多くの人々もきっとそうだろう。それだけで良い。